公的な制度が変化したとき 先ずは社会保障制度について理解しよう

公的な制度が変化したとき 先ずは社会保障制度について理解しよう

日本の社会保障制度はとても充実しています。
日本の社会保障制度には
「社会保障」「社会福祉」「公的扶助」「公衆衛生及び医療」
の4つの分野があります。

現在の社会保障給付費は
年金費用・・・約47%
医療費用・・・約32%
介護その他費用・・・21%※財務省HP「日本の財政を考える」「社会保障費はどのくらいまで増えるのか」を参照。
という割合となっており、毎月の給与から天引きされている社会保障費と、日本の社会保障制度のつながりをきちんと理解されている方は必ずしも多くはありません。ここでは、日本の社会保障制度の仕組みや、社会保障費と社会保障給付費の違い、社会保障給付費の内訳などについて書いていきたいと思います。皆さまが民間の保険について検討する前はもちろんですが、それとは関係なく、日本社会で生活していくうえでぜひ基礎知識として知っておいてほしいことばかりですので、ご参考になれば幸いです。

社会保障制度とは 人が生きていく上で、予期せぬ災害や病気など、一時的に自立した生活を送ることが難しくなることは誰にでも起こりえることです。そんな時に社会全体で困った人をサポートしてくれるありがたい制度、それが社会保障制度です。制度として世界で初めて社会保障を行ったのは15世紀以降のイギリスといわれています。「ゆりかごから墓場まで」ということばがあるように、イギリスは充実した社会保障制度を整えている国です。
その一方、アメリカは、医療保険等の強制加入はありません。基本的に個人の判断を尊重するという考え方が基になっており、「国民皆保険制度」を取り入れている日本とは大きく異なります。
『高福祉国家』で有名なスウェーデンは、その一方で高い負担を国民に求めている国家でもあります。
日本の消費税にあたる付加価値税は25%で、さらに所得税も30%、とかなり高い税率で税金を納めており、だからからこそ充実の社会保障制度が実現しているのです。日本での制度としての社会保障は明治時代に始まります。近代社会形成を目指した明治政府が国による窮民救済を行うようになりました。ただ、まだ社会保障制度自体が未成熟の時期であったこともあり、対象となるのは70歳以上の高齢者や15歳以下で困窮している場合のみというように保障の対象範囲が限定的なものでした。やがて政府の様々な制度が整ってきた大正時代になると、政府はドイツの疾病保険を手本にして「健康保険法」(1922年)を制定しました。これは現在の医療保険の先駆けともいえるもので、第一次世界大戦後の不況で工場の閉鎖などが相次ぐなか、工場労働者等の救済を目的とした保険制度でした。その後、1938年に国民健康保険法が制定され、ここでようやく対象が農村漁村民にまで幅広く広がることになりました。第二次世界大戦後、昭和20年代には生活困窮者の緊急支援を行うため「日本国憲法」に基づき社会保障制度の整備を行いました。続く昭和30年代~40年代の高度経済成長期は、社会保障制度も戦後の緊急支援から全体を見渡した国民皆保険制度・国民皆年金と社会保障制度を発展させる段階を迎えます。その後のバブル崩壊などを経て、さらには超高齢化社会を迎えることとなり、社会保障制度は今に至るまで時代や経済社会の変化と共に常に見直され続けています。

社会保障制度の4つの分野について  1「社会保険」 けがをしたり風邪をひいたりして病院に行くと治療費や薬代がかかりますが、私たちが支払っているそれらのお金は実際の金額よりもかなり安くなっていることは皆さんもご存知と思います。一般的にはみなさんが負担する医療費は3割で、残りの7割は日本の健康保険制度から支払われています。
病気やケガ以外にも、失業したときに失業手当が受けられる雇用保険、老後の生活を支える公的年金、介護が必要な方のための介護保険、障害を負ってしまった時に受取ることが出来る障害年金など、さまざまな経済的困窮に対してあらかじめ備える働きをしているのが「社会保険」です。「民間の保険」との最大の違いは、「社会保険」が原則すべての国民が入ることを法律で義務づけている社会全体の支え合いの仕組みであるという点でしょう。民間の保険は自らの意志で加入しますが、必ずしも全員が加入できる訳ではありません。中には健康状態などの理由から希望しても加入出来ない人もいます。そんな人でも社会保険には必ず入ることになります。この社会保険の財源の一部は税金でまかなわれています。

2「社会福祉」 障がい者や母子家庭など、社会生活を送る上で様々なハンディキャップを負っている人々が、そのハンディキャップを克服して安心して社会生活をおくることが出来るように公的な支援を行う制度です。・保育所の設置・保育料の軽減・児童手当の支給・公立高等学校の授業料無償化・障がい者の自立支援・バリアフリー化した住宅環境の整備・障がい者が生活しやすい街づくりなどなど、さまざまな方面から私たちの生活を支えてくれています。

3「公的扶助」基本的には病気やケガなどの際には健康保険があり医療機関を自己 負担3割で受診することができますし、また、仕事を失ってしまった際には一定の要件さえ満たしていれば雇用保険から失業給付を受けることができます。
しかしながら、これら社会保険だけではサポートすることが難しいほど生活に困窮してしまっている人たち、健康保険の3割負担を支払うのが難しかったり、日々の食費にも困ったり、という人たちがいることもまた事実で、こういった人たちを社会全体で支えるための制度になります。具体的には、必要最低限の生活費を保障し自立の助けをする「生活保護」制度を取っています。この生活保護制度には8つの扶助があります。「生活扶助」・・日常生活にかかる費用の扶助 / 「住宅扶助」・・家賃等の扶助 / 「教育扶助」・・子どもの教育費等の扶助 / 「医療扶助」・・医療機関受診等の扶助 / 「出産扶助」・・分娩介助など安心して出産をするための扶助 / 「介護扶助」・・介護サービス費等の扶助 / 「生業扶助」・・仕事に就く上での扶助 / 「葬祭扶助」・・葬式費用等の扶助 これらの扶助を受けるには、資産、能力等の要件が決まっており、要件に該当するかを確認するために給付申請を行うとミーンズ・テストという資力調査が行われます。支給額は地域や世帯の状況などによって異なります。

4「保険医療・公衆衛生」 医療や公衆衛生の観点から、国民の健康維持・向上、疾病予防を目的とした制度です。
厚生労働省や各地域の保健所や保健センターが中心となって地域の健康診断の実施を行ったり、感染症や伝染病の予防や対策、母子保健、成人病対策、精神衛生、公害対策、労働衛生、その他広範囲にわたっています。ペットなどの動物の保護も「保険医療・公衆衛生」に含まれます。

医療保険について 日本の医療制度は、「国民皆保険」といわれ、国民全員を公的医療保険で保障しています。
このおかげで、自己負担は原則3割で、医療を受けることができます。また、医療機関を自由に選べるのも特徴的です。
国によっては、自由に選べない場合もあるからです。運営財源は社会保険方式で保険料として徴収し、公費と税金により制度を維持しています。

1健康保険 健康保険(健保)は、健康保険の適用事業所で働く会社員が加入しています。その他にも海上で働く船員を対象とした船員保険、公務員などの加入する共済組合などがあります。健康保険は、被保険者の業務外の事由による疾病、負傷、死亡、出産について必要な保険給付を行っており、人間ドッグなどでの検査、美容を目的とした手術などは基本的に対象外となります。また、被保険者だけでなく被保険者に養われている配偶者や子などの被扶養者の疾病、負傷、死亡、出産についても必要な保険給付を行います。初めにも書きましたが、健康保険から給付は業務外の事由によるもののみで、業務上のけがや病気については労災保険から給付を受けることになります。

2国民健康保険 国民健康保険(国保)は、公的な社会保険制度のひとつで、私たちが病気やけがをしたとき安心して医療が受けられるように、みんなで支えあう制度です。健康保険とは違い、業務上、業務外を問わず国民健康保険から給付を受けることができます。国民健康保険の保険者となるのは、市区町村、または業種ごとに設立された国民保健組合で、原則として世帯を単位として加入します。健康保険や船員保険、共済組合などの加入の対象とならない自営業者などは、この国民健康保険に加入しなければなりません。国民健康保険では健康保険とは違い、世帯主である被保険者に扶養されている配偶者や子であっても、原則として被保険者として加入しますが、75歳以上の方は、後期高齢者医療制度に被保険者として加入することになります。後期高齢者医療制度の医療費の自己負担は所得により変わり、原則は自己負担1割で受診することができますが、現役世代並みに収入のある人は医療機関を受診した際の自己負担が3割となります。国民健康保険の保険料は、原則として世帯主(または組合員)が全額納付する義務を負います。また、一部の地域では保険料ではなく国民健康保険税として徴収されます。保険料は市区町村によって決め方が異なっており、前年の所得を基準とした「所得割」と、被保険者数に応じた「均等割」に加えて、世帯にかかる「世帯別平等割」、固定資産税を基準とした「資産割」などがあります。国民健康保険は、過去は各市町村が運営していましたが、平成30年4月からは市町村と共に都道府県主体で運営を担っていくということに変更となりました。

労働保険について 労働保険は、労働者災害補償保険、雇用保険に分類されます。では順番に説明していきます。

1労働者災害補償保険 労働者災害補償保険、略して労災保険といいます。
労災保険は、仕事中に起こった事故(業務上災害)や通勤途中の事故(通勤災害)によって発生した労働者の負傷・疾病・障害・死亡について必要な保険給付を行います。労災保険は事業所を単位として加入しますが、一部の事業を除き、労働者を1人でも雇っている事業主は、労災保険に加入しなければなりません。よくパートやアルバイト従業員は対象外と思われている方もいるようですが、パートやアルバイト等の雇用形態に関係なく対象となります。逆に、労災保険の適用対象となるのはその事業所で働く労働者のみですので、社長や役員など労働者ではない方々は、原則として労災保険の適用対象とはなりません。 保険料は全額を事業主が負担します。労災保険からの各種給付に対しては所得税などは課されません。

2雇用保険 雇用保険は、働く意思と能力がある人が失業したときの生活保障や次の就職のための能力開発、高齢者や育児・介護休業者の生活保障などのために必要な給付を行う制度で、保険料は一部を被保険者が負担し、残りを事業主が負担します。主な給付金は以下の通りとなります ・基本手当(いわゆる失業手当)/・高年齢求職者給付金/・教育訓練給付金/・高年齢雇用継続給付/・育児休業給付金/・介護休業給付金

今後の日本の社会保障制度について  少子高齢化が進む日本では、15歳から64歳までの働き手、つまりは保険料を支払う人口である生産年齢人口が減少していくため、社会保険料の収入は横ばいとなりつつあります。その一方で、厚生労働省「社会保障給付費の推移」によると、2000年の社会保障給付費は78.1兆円ですが、2014年に給付された社会保障給付費は115.2兆円となっており、過去14年間で約40兆円も増加しております。にもかかわらず2000年から2014年まで、国民所得に大きな変化はなく、つまり国民所得に対して国民負担率は大きくなる一方です。現在の日本がおかれている状況から考えると、国民一人ひとりの負担は今後も増加していく傾向にあります。

まとめ 日本の医療保険制度等は「国民皆保険」制度となっており、すべての国民が安心して医療機関を受診できる制度が整っているということがおわかりいただけたかと思います。これまで、日本は世界の国々と比べて「高齢者の給付が手厚い」ともいわれてきました。ところが今、日本社会は少子高齢化が進んでおり、やがて超高齢化社会を迎え、総人口も徐々に減少していくと予測されております。そのため国は社会保障制度存続のために、制度の変更や様々な施策を試みています。これは私たちにとっても決して他人事ではありません。一人ひとりが将来どうありたいか、社会の一員としてどうあるべきか、真剣に考えてみることも必要ではないかと思います。