定年退職後は、子育てや仕事が一段落し、自分のために時間を使える人生のステージの方が多いのではないでしょうか。これまで頑張ってきたのですから、心穏やかに過ごしたいものです。しかし、その一方でお金に関する心配事も尽きません。

「病気やケガをしたときの費用で家族に負担をかけないだろうか」「万が一のことがあったときに葬儀費用などで家族は大変な思いをしないだろうか」このような不安がにわかに大きくなってきた方も多いのではないでしょうか?

そこで、ここでは病気やケガ、そして亡くなった時に、ご家族や周りの方に負担をかけないようにするための

「定年退職後に必要な保険」をお伝えします。

①入院や手術に備えるための医療保険

老後・退職後の大きな変化の一つは、どうしても今までより体力が衰えてしまうことです。年齢が上がるにつれて少しずつ体が言うことを聞かなくなり、病気やケガにかかるリスクは大きくなっていくでしょう。そのときに心配なのが、病気やケガによる入院・手術の費用です。高齢になると、入院が長期化しやすく、治療費も高額になってしまい、かなりの費用負担になることも考えられます。それを自身ではカバーし切れずに家族に負担をかけてしまうのは、できれば避けたいところです。そこで重要なのが医療保険でしょう。基本的に医療保険は、病気やケガで入院・手術をした際に保障を受けられる保険です。保障内容としては、入院保障や手術保障が中心になっており、最近のものは先進医療を受けたときや三大疾病(がん(悪性新生物)・急性心筋梗塞・脳卒中)を患ったときに手厚く保障を受け取れる特約が付加できるものがほとんどです。保険料が上がるリスク並びに更新が80歳前後で終わる更新型(定期保険)よりも終身型をおススメします。
医療保険の保障内容について
医療保険を検討するとして、保障内容はどうすれば良いのでしょうか? それを考えるために老後・退職後に入院や手術をした場合に、どのくらい費用がかかるのか見ていきましょう。日本では病気やケガで治療費が発生した場合、そのほとんどが公的医療保険制度でまかなわれ、個人の負担割合は年齢や収入に応じて2~3割になります。さらに75歳以上になると、その方の収入や世帯収入などにより一部例外があるとはいえ、個人での負担は1割にとどまります。
それに加えて、同じ一か月の間にかかった治療費が一定額を超えた場合、その超過分を国が負担してくれる高額療養費制度も用意されています。年齢や収入によって「一定額」の規定はことなりますが、基本的には70歳以上であれば57,600円が上限となっている方が多いようです。言いかえると、入院時や手術時に特別な治療や待遇を受けたりしなければ、月の治療費の負担は57,600円を超えないということになります。そう考えると、老後・退職後を境にして段々と治療費の自己負担額は少なくなっていくと言えそうです。
ただし注意したいのは、公的医療保険制度の対象外になっている費用です。たとえば個室に入院した際にかかる部屋代「差額ベッド代」は、その代表例の一つでしょう。
もちろん個室での入院を希望しないなら、差額ベッド代は発生しないのが一般的です。ですが症状が重いときに相部屋で入院をすると、同じ部屋にいる人の生活音や、お見舞いに訪れた人の話し声など、普段は気にならない些細なこともストレスになりかねません。特に入院が長期化することも多い高齢の方であれば尚更でしょう。
そうした理由から、中にはストレスなく治療に専念するために個室を望む方も少なくないようです。そのほかにも、食費、娯楽費、被服費などの雑費は公的医療保険制度の対象にはならず、全額自己負担になります。また、先進医療など公的医療保険制度の対象外となる治療を受けた場合、その種類によっては高額な治療費を自己負担しなければいけません。
たとえ公的医療保険制度があるとはいえ、特別な治療や待遇を受けることも想定し、最低限の医療保険は備えておいたほうが良いと言えそうです。

②万が一に備えるための死亡保険

定年退職後に気がかりなのが、もし自分に万が一のことがあったとき、家族に負担をかけてしまわないかどうかです。死亡保険は万が一のときに、残された家族がまとまった保険金を受け取れるようにしておく保険。定年退職後の死亡保険は、どのように備えれば良いのかを考えます。②死亡保険は“終身”若しくは長期の定期保険で”葬祭費用の準備”として! 医療保険と同様、死亡保険も保険期間によって定期型と終身型に分かれています。それぞれの特徴を掴んで、定年退職後の死亡保険としてはどちらが適しているのか、そしてどのくらい保障を用意すればよいのかを見ていきましょう。②-①定期型死亡保険は、更新や満期があるタイプの死亡保険です。更新では、保険料が上がったり、もしくは保障金額が下がったりします。満期を迎えると、保障が終了するものが一般的です。定期型死亡保険の特徴は一定期間、手厚い保障を手頃な保険料で用意できるところだと言えます。近年は90歳満了の解約返戻金を無くした無解約定期保険が発売されています。②-②終身型死亡保険は、更新や満期がないタイプの死亡保険です。加入時のまま保険料・保障内容ともに変わることなく、亡くなるまで保障が続きます。終身型死亡保険の特徴としては、一生涯の保障を用意できるところです。解約返戻金を抑えた終身保険・外貨建ての終身保険・運用実績に応じて死亡保険金/解約返戻金が変動する、変額保険終身型など終身保険も様々な商品がございまず。

③保険金額の決め方について 

一般的に死亡保険金の額については、最低限の葬祭費用を用意しておけば十分でしょう。勤労所得が主な収入源だったり、まだ子供が独立していなかった期間は、自分に万が一のことがあったときの残された家族の生活費や教育資金を考えて、高額な死亡保険金を準備されていた方も多かったかと思います。ですが、定年退職後になると、すでに仕事での定期的な収入は無くなり、子供は独立していることがほとんどです。その意味で老後・退職後の生命保険では、残された家族の生活費までカバーする必要はなく、あくまでも葬祭費用として200万円~500万円程度を準備しておけば十分だと言えそうです。子供の独立後も大きい死亡保険を続けているのなら、この老後・退職後に差し掛かるのを機に死亡保険の見直しをしてみると良いでしょう。一般的に死亡保険は医療保険よりも保険料が高額なことから、うまく見直せば大きな家計の節約にもつながるかもしれません。

④死亡保険で相続税対策!? 

原則的に死亡保険で受け取った保険金には、税金がかかります。ですが、もし保険金の受取人が相続人であった場合、死亡保険金が一定の上限額を越えなければ非課税となります。その非課税となる上限額の計算方法は、次のようになります。500万円×相続人の数=死亡保険金に対する相続税が非課税となる上限額たとえば、相続人が4人いらっしゃる場合は、その死亡保険金に対して相続税がかからない上限は500万円×4人になりますから、相続人は合計2,000万円までの死亡保険を非課税で受け取ることができます。なお、基本的に相続人とは「子」「配偶者」などを指しますが、場合によっては「直系尊属」「兄弟姉妹」になることもあります。多くの財産を持たれている方は、このような生命保険の節税メリットもしっかりと活用していきたいところです。

⑤介護状態に備えるための介護保険 

定年退職後の備えとして忘れてはならないのは、もしも介護が必要になったときの費用です。とくに高齢の方の場合、病気やケガにより介護が必要となる可能性も高くなります。介護を受けることになったら、経済的にも精神的にも時間的にも家族に大きな負担をかけてしまうかもしれません。そうした“いざというとき”の備えとして、介護保険は老後・退職後に検討すべき保険の一つと言えるでしょう。ここでは、そもそも介護費用がどのくらいかかるのか、そして民間の介護保険とはどのような保険なのかを見ていきましょう。

⑤-①介護費用も全額自己負担ではない
入院や手術の治療費と同じように、介護にかかる費用も全額自己負担ではありません。国から介護が必要な状態だと認められた(=要介護認定)場合、公的介護保険からさまざまな支援を受けることができるのです。大きく分けると、(1)介護サービスを利用した際の自己負担が1割~3割 (2)「高額介護サービス費制度」が挙げられます。 (1)介護状態になった場合、さまざまな介護サービスを利用することになります。代表的な介護サービスとしては、自宅に訪問してもらう「訪問サービス」、日帰りで施設に通う「通所サービス」、短いあいだ施設で過ごす「宿泊サービス」、施設に入所する「入所サービス」などです。それらのサービスを利用する費用のうち、個人で負担するのは収入に応じて1割から3割と定められています。残りは公的介護保険からサービスの提供者に支払われます。ただし、要介護度の重軽度に応じて、支給の限度額が設けられており、その超過分は全額自己負担になるので注意が必要です。 (2)公的介護保険の利用した介護サービスの費用に対する支給限度額を超えた場合、その部分は全額自己負担になるとお伝えしました。ですが、もしもその介護サービス費の自己負担額が定められた上限額を超えたとき、さらにその超過分が払い戻しされる制度も用意されています。これを高額介護サービス費制度と呼びますが、その上限額は収入によって15,000円~44,400円の間になっています。

⑤-②介護費用の平均額
それでは、実際にいくらかかるのでしょう?介護費用月額の平均×介護期間の平均=総額として、見てみましょう。1ヶ月にかかる介護費用は、要介護の状態、介護を受ける場所や住宅環境、家庭の事情などによってかなりバラつきがありますが、平成30年度 生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」によると、平均額は7.8万円となっています。介護期間で最も多いのは、4~10年未満で28.3%。次が2~3年未満、3~4年未満、10年以上が並び、14.5%となっています。そして平均は4年7ヶ月(54.5ヶ月)です。「平均期間」と、「月額の平均額」を掛け算して、介護費用の平均総額を算出してみると54.5ヶ月×7.8万円=425万1,000円いきなり総額を支払うわけではありませんが、450万円近いお金が必要ということになります。親が介護を受ける場合、親の経済状況や、兄弟姉妹の経済事情なども踏まえ、必要な介護費用を「誰が」「どのぐらい」払うのか、早いうちから考えておくことも重要です。

⑤-③民間の介護保険ってどんな保険?
民間の介護保険と一口で言っても種類は様々ですが、最大公約数的にいえば「所定の介護状態になったときに年金もしくは一時金の形で保険金を受け取れる保険」ということになります。先ほどお伝えしたように、生命保険文化センターの調査にある介護費用(月々)と介護期間単純に計算すると、介護費用は450万円程度必要になってきます。もちろん、あくまで平均ですからすべての方がこれだけの費用負担をするとは限りません。とはいえ、これが平均=一つの基準だと考えた場合、貯蓄や収入のみで介護費用をまかなうことは一般的に難しいと言えそうです。そのような背景を踏まえれば、万が一介護状態になってしまったときに、介護保険から年金や一時金として保険金を受け取れたら、心強い助けになるのではないでしょうか。通常、年齢を重ねるにつれて骨折や認知症などで介護が必要になるリスクは高くなっていきますから、いざというときに家族への負担を軽くするためにも、定年退職後に介護保険を検討してみてはいかがでしょうか。
ただし、介護保険は医療保険などと違い、各保険会社で保険金の給付条件にかなりのバラつきが見られます。それゆえに介護保険を検討するのであれば、しっかりと商品を比較されることをお勧めします。